立方体都市

僕がこの作品で描いている認識の世界では、世界の姿は、誰もが望んだように定まります。
現実の世界では必ずしもそうではないかもしれません。しかし僕は創作家として、思いや
願いのままに世界が定まって欲しいと希わずにはいられないのです。うまくいかないこと
がこれほど多い世界だからこそ。人々の流した哀しい涙は絶対に無駄ではなく。礎として
すばらしい未来へと必ず繋がっているのだと。不屈の信念によって信じ抜くことで世界を
変えようと思ったのです。僕の旅にどうかもうしばらくお付き合いいただければ幸いです。
僕だけの旅ではありません。これは悠久の旅路です。誰もが自由気ままに参加することが
できます。思いの力で、世界を変えて、幸せになろう。そう思い、願い、希ったのならば、
現実の世界は認識の世界へと変わります。新しい未来はすぐそこにあると気がつくのです。

140文字の繋がりが作り出す世界観を堪能できるツイッター小説の技法を取り入れつつ、
それぞれのツイートが連続してひとつの小説になっている独自の表現も駆使しております。
荒々しく、熱く、情熱的な、昔の犬吠埼一介ならではの原初的な躍動感が魅力の作品です。

・第一章 立方体都市
 売れない創作家の頭の中にある街、アイデアシティで働く文字たちの話。

・第二章 価値観戦争
 そこから飛び出した、犬と猫のふたりが旅をする話。

・第三章 クオリア
 暗闇の街で生きてきた子供たちが、光を取り戻す話。

小説:犬吠埼一介
イラスト:SUN介

界隈で話題になっている、九作品の中編小説からなる「犬吠埼ナイン構想」という
サーガの一番目の章作品です。この作品から読み始めても問題なくお楽しみいただ
くことができます。オフィシャルサイトでさらに詳細なご紹介を掲載しております。

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★立方体都市

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認識の世界で繰り広げられる苦悩の日々。絶望は打倒され希望へと
変わり、世界は思いのままに定まるのだと気がついていく。希望を、
慈悲を、優しさを、温かさを。そして復活を描いた、昔の僕らしい
躍動感あふれる作品です。

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 夜を徹して働いていた。そりゃそうだ、この街には夜しかない。太陽を失った街。アイデアシティには、朝は来ない。世界の終わりの日まで。皆、朝日を望みながら、必死で働いている。生まれては消える、そのくり返しを、愛の響き合いで繋ぎ合わせながら。そう思った途端、世界が揺れた。

 何事だと思う間もなく僕は気づいてしまった。奴だ。イレイザーが来た。大切な書類たちを収納した棚が音を立てて崩れるなか、僕は、何はなくとも彼女の姿を探した。だがすぐに、ぎらつく銃口を下げた黒い戦闘服の男たちが部屋になだれ込んできた。僕はとっさに身を隠す。死が火を噴く。

 イレイザーは、アイデアを、消去する。ならぬ!! その姿で、あってはならぬ。消しゴムのモチーフに、文字たちは敵わない。なすすべもなく、追いやられるしかないのだ。だが、諦めない。僕は、諦めない! という文字を全身にみなぎらせて、消しゴムの無慈悲な衝撃に耐えようとした。

 イレイザーたちは、満足したのか、部屋を去ったようだ。ふっ、甘いよ。消し残しだ。僕は生きている。はっとして、瓦礫と化した消し屑たちのあいだから這い出すと、僕は、ゆらぎ子のところへと向かった。大切な彼女を、消されてたまるか。手のひらに汗がにじむ。すぐに、見つかったよ。

 彼女は、歌いながら、そこにいた。僕を待っていた、そんな感じで。少しも、消されることを恐れていない。彼女はいつだってそうだ。手のひらに汗を浮かべて、こうして駆けつけてきた僕をあざ笑うかのように、僕の瞳の奥を覗き込むのだ。逃げよう。僕が短くそういうと彼女はついてきた。

 タクシーが外で待っていた。運転手の男は、粛々と僕らを乗せると車を出した。ビルが遠ざかる。アイデアシティの車通りはまばらだ。ほんの少し進んだところで、背後でビルが爆発する轟音が響いた。車もそんな轟音に驚いたのか止まり、震える。ビルはもう駄目だろうかと、腰を浮かせた。

 その途端。何かが引っかかった。何年も掛けて積み上げた文字たちを、同じ文字である僕が、守ろうと腰を浮かせたんだ。憤り振り返ると、僕の「左手」が、彼女の「右手」によって、握られていた。彼女との繋がりがきしんだ。行かないで!! その文字で、全身全霊をいっぱいにした彼女。

 僕は、彼女の手のひらにも、汗がにじんでいるのを感じた。炎が、夜空の闇を照らしている。大切な文字が燃える、燃える。焦る。頬を汗が伝うのが分かった。ゆらぎ子が手を離さない。運転手を見た。目をそらすのかと彼女が手を握りしめたとき、その強さに、僕は諦めた。車は走り出した。

 アイデアシティは、売れない創作家が頭の中に構築した、情緒不安定な世界だ。住人たちは、彼の本が少しでも売れるようにと、必死で働いて暮らしている。文字たちの街。どんな言葉も住むことができる。ただの言葉でよければ。言葉の連なりが世界を構築する、その繋がりこそアイデアだ。

 言葉たちは、彼が幼いころから、アイデアシティを開拓してきた。始めは何もなかったらしいよ。だが、創作家が壁にぶつかる度に街は大荒れに荒れたと、歴史書は語っている。ならぬ! その姿でいてはならぬ、と、イレイザーたちが、せっかく命懸けで積み上げたアイデアを駆逐するんだ。

 僕は、いつからか生まれた。気がついたら、ここにいたんだ。僕は、絶対夫。弱い力を司る。創作家があまりにも愚かだから、僕が生まれたんだと思う。ありえないことを望むよ。何か問題が? 僕が連ねる文字は、空虚だ。冷たくて、笑わせてくれる。単なるジョークにはもってこいだがね。

 皆が、僕を絶対夫と呼ぶので、僕はその名前を受け入れた。今、車に乗っている彼女は、ゆらぎ子。僕の唯一の彼女だ。創作家にすら彼女がいないのにね。いや、だからか。彼女はすごいんだよ。僕がゆらぎ子と呼んだだけで、受け入れてくれたくらいだ。他人の呼び名には耳を貸さなかった。

 ゆらぎ子の力は、強いよ。創作家が寂しかったので生まれたのかな。あるいはもっと別の理由かもしれない。絶対夫である僕にそこまで分かるはずがないじゃないか。無理をいうなよ。彼女の力は包み込む力。僕の力は殴る力だから、ジャンケンで彼女に勝ったことも、引き分けたこともない。

 絶対と、ゆらぎと、運転手と、車。僕ら文字たちは、作品が完成するまで朝の来ない街を、ひたすら飛ばした。古きよき歌と音楽が流れている。ゆらぎ子が、アイデアシティから持ち出したんだよ。イレイザーの目を盗んでね。僕は、彼女も、彼女の歌も好きだ。とても惹かれるんだ。きれい。

 車は街を出て、真夜中の海へ。灯台のある海岸。創作家は、イレイザーたちを、なぜかこの場所には近づけたがらないんだ。絶対にね。何がそんなに、ここにあるんだろうか。灯台の目が、ぐるぐると、回る。なぜだ、なぜだ、なぜだ。僕には、あの光が、何を求めているのかが、分からない。

 車を降りて、崖道を歩くと、海風が通り過ぎて気持ちよかった。ゆらぎ子は、タクシーから聞こえてくる音楽に合わせて、歌を口ずさんでいる。彼女の髪が、潮風に流れて揺れる文字の連なりが美しくて、すてきで、僕は言葉を忘れそうになる。彼女が好きだ。その文字で埋め尽くされるんだ。

 灯台の光。真夜中の海。海岸。物語が完成したとき、最初に光を浴びる場所だそうだ。誰にも分からないように、そっとその場に印をつけた。紙に、刻印したんだ。いつかこの場所を訪れることを信じていたから。絶対夫である僕こそが、きっとイレイザーの目を抜けて、朝を迎えてやるんだ。

 タクシーの運転手は、煙草をくわえて、何もないように見える夜空を見ている。煙という文字が空を流れると、星がまたたいているのが見えてきた。この男は、タクシーの運転手だ。僕らが創作家の頭の中を移動するときに、彼はいつもタクシーを出してくれる。便利な男だ。車も高性能だよ。

 イレイザーたちは、創作家が悩んだ末についに駄作だと決心したアイデアを一掃し、きっと今ごろ、何事もなかったかのように白紙のビルが用意されている。まったく、こっちの苦労を何だと思っていやがる。まあ、創作家にも事情があるだろう。彼がこうしたからにはチャンスでもあるんだ。

 ゆらぎ子と僕だけが、駄作として処分されたアイデアの連なりから、生き残った。今こうして、イレイザーの入り込めない場所に、逃げることができたんだよ。いいじゃない、彼女と僕と、この物語は、二人が主役なんだから!! 僕らふたりが、合わさって、創作家なんでしょ。間違いない。

 僕は、灯台がぐるぐる回る、その光をぼんやりと見ながら、決心した。ゆらぎ子とふたりで、絶対にイレイザーに負けない言葉の連なりを、画期的なアイデアを、この世界に作ってみせるってね。すばらしい世界になる。間違いない。僕は、絶対夫だよ? 僕がいうからには間違いないんだよ。

 何事もなかったかのように、アイデアシティに平穏が戻った。何事もなかったわけじゃない。昨日までの言葉たちが消えている。跡形もなく。これじゃ、いつまでも夜は終わらない。僕ら文字は寝る必要すらないから、別に困らないがね。さあ、新しいアイデアを構築しよう。「立方体都市」

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